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発表者 飲めば吐いてしまうのでセーブしなくてはいけないということは説明して、それは彼も十分納得の上ということでした。こういう人はなぜか最期には苦痛があるのに、食べたいというのが結構本音なのではないかと思うのです。
Andrew 腸閉塞に関しては最初のケースと似ているところもあるので、あえて付け加えるところはないように思います。
Wendy 少量のクロマジンを坐薬で投与するという方法があるのではないでしょうか。それをやらないと閉塞を緩和できないという状況ではないでしょうか。セマルトスタジン、オクチオタイドを使うという可能性もあります。
Andrew 患者に飲むな食べるなということは言えないし、言わないのですが、経口で物を食べるのも、静注で輸液をするのも無意味だというディスカッションはします。これは単に患者に飲むな食べるなということとは違います。鎮静の目的でもユーザネージアの目的でもないけれども、飢え渇きを抑えるという目的で少量のオピオイドを与えるのです。
Wendy 心理的な面があろうと思います。われわれも患者本人にしても家族にしても、29歳の若い男を死なせたくないという気持ちは誰にも強いのです。状況を改善したいという気持ちはみんなが共有しているものだと思いますから、改善する方法というのは心理的な危機状態から脱することを助けることではないかと思います。
〔症例4〕
疼痛と恐怖感の緩和に難渋した神経細胞口(3回目の再発)の少女
日大板橋病院白土辰子
●11歳、女児、小児科、ペインクリニック
病歴
5歳:神経芽細胞腫摘出術(後縦隔原発)7歳:自家骨髄移植
9歳:右頸部腫瘍摘出術(再発)、化学療法。退院2ヵ月に腫瘍マーカー上昇。再入院で治療再開。
11歳:平成8年1月、死の3ヵ月前より寒痛増強。CTで腹部大動脈周囲と左背部に浸潤像を認める。
末期の経過
2.21:腹背部痛増強のためMSコンチン投与を開始し一時的に寒痛緩和するが、痛み増強に対して医師は増量をためらう。母親はモルヒネ増量希望を看護婦に話す。
3.22:MSコンチン増量困難で疼痛緩和不良。病棟主任の根回しでペインクリニック依頼となる。IVH開始、塩酸モルヒネ持続点滴に変更。痛み増強時にモルヒネ10mgの急速注入で緩和
3.31:疼痛と不安が増強して不眠。モルヒネ+ケタラール点滴で疼痛緩和。早送りで臨時投与
4.19:恐怖で本人が「眠りたい」と希望したために検討した結果ドルミカム投与で夜間鎮静
4.29:永眠
チェックポイント
1)プロフィール
患児は頭脳明晰、神経質。希望を明確に主張。納得して治療を受けるタイプ、母親は疾患に関する情報を収集し知識豊富。両親で病室に24時間付き添う。
2)病気および病状の説明
本人へ:「炎症」「炎症をとる治療をする」。末期になって治療法がなくなったとは言えず、具合がよい時のみ放射線治療をする方針で合意する。
家族へ:「神経芽細胞腫」「これ以上治療法はない」「何時急変しても不思議はない」
3)患者の受け止め
長期の入院で同病患者の経過を熟知。本人の訴えは、?痛みをとってほしい、?眠いのは嫌だ、?恐い、?呼吸が苦しい、?じっとしていられない→これらの症状を「何とかして」→ぐっすり眠りたい→だけど怖い!と言う。
家族の受け止め:「もう駄目ならば家に帰って少しでも親子3人だけの時間を持ちたい」「痛んだらすぐにモルヒネを増量してほしい」
4)希望事項
親は苦痛緩和と外泊を希望。子供は「良くなるまで帰らない」

 

 

 

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